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京都地方裁判所 昭和56年(む)39号 決定

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一  本件準抗告の趣旨および理由は、弁護人提出の検察官の処分に対する準抗告申立書記載のとおりである。

二  検察官の意見は、検察官提出の本日付二通の意見の書面のとおりである。

三  当裁判所の判断

1  被疑者は、収賄被疑事件につき、昭和五六年三月八日逮捕され、同月一〇日勾留に処せられ、現在代用監獄京都府警察本部留置場に在監中である。検察官は同日「捜査のため必要があるので、右の者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者との接見又は書類若しくは物の授受に関し、その日時、場所及び時間を別に発すべき指定書のとおり指定する」との接見等に関する指定書を発し代用監獄の長にその謄本を交付した。

2  右指定書の文言によれば、検察官は、被疑者と弁護人らとの接見等に関し、その日時・場所・時間を別に発すべき指定書により指定し、それ以外の日時・場所・時間においては、これを一般的に禁止する旨を右指定書により指定したものと解する余地がないではなく、仮にそうだとすれば、右指定は違法なものとして取消を免れない。

捜査機関は、弁護人から被疑者との接見の申出があった場合には、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合に限って、できる限り速かな接見のための日時等の指定をすることができるにすぎないのである。

しかし、右指定書は、法務大臣訓令による事件事務規程に依拠するもので、その内容は、日時・場所及び時間を具体的に指定してなすべき刑訴法三九条三項の定める指定の方式とは著しく異なるうえ、監獄の長に交付されるだけで被疑者、弁護人らにあてて発せられたものでなく、これをもって右条項にいう指定と解し難いものであるから、監獄の長としては、弁護人らから被疑者との接見の申出があった場合には、右指定書が発せられていることをもってその申出を拒絶することはできず、刑訴法三九条三項所定の指定がない限り、原則である同法三九条一項に従ってその接見を許さなければならない。監獄の長としては右指定書が発せられているので、検察官に対し、即時同法三九条三項の指定をするか否かを問い合わせることになるが、右に必要な時間は、それが合理的な範囲内である限り、事務処理のための所要時間であって、その間待たされたからといって直ちに弁護人らと被疑者の接見を拒否したものとはいえない。なお、右合理的に必要な時間を超えて検察官の同法三九条三項所定の指定又は接見の指示がない状態が続くときは、被疑者の利益に原則に従って接見を許さなければならないのである。

次に本事件における右指定書をめぐる実際の運用についてみると、弁護人は、昭和五六年三月一一日午後一時ころ京都府警察本部留置管理課に赴き、同課課員に対し、被疑者との接見を求めたところ、同課員は検察官に連絡する旨答えて、直ちに検察官に電話で連絡報告したので、検察官は弁護人にその電話に出てもらい、接見の申し出を確認し、指定書を取りにゆく意思はないとのことであったので、一旦電話を切り、捜査二課小中警部に電話をかけ、現在被疑者を取調中であるか否か、これから弁護人が接見しても支障がないかを確認したところ、これから取調予定であるが、現在は取調べていない、短時間の接見なら捜査に支障がないとのことであったので同警部に対し弁護人と被疑者との接見をさせるよう指示し、同日午後一時一五分から接見が行われたのであり、本日も午前八時三〇分から同五〇分までの接見が行われており、検察官も留置管理課の関係者も刑訴法三九条に違反する行為に出ていないことが認められ、検察官の意見の書面のように本件指定書を事前事務連絡文書として取扱い運用をしているというべきである。

してみると、本件指定書は(その形式、内容は改正されるべきものと思料するが)、事前の事務連絡用の書面と解することができ、この書面によって被疑者、弁護人らに対し訴訟法上の効果が発生しているものとはいえないというべきである。従って、検察官が本件指定書を発したことをもって刑訴法四三〇条一項にいう同法三九条三項の処分があったものとみることはできないし、その取消を求めることもできないというべきである。

3  よって、刑訴法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 吉田治正)

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